限定承認と相続放棄の関係
2024/03/24
相続の手続の中に、限定承認というものがあります。限定承認とは、一言で言うと、プラスの範囲内で財産を相続することで、負債を相続しなくてもよい相続方法になります。財産を負債が上回る場合には、1円も相続できませんが、プラスになった場合にはプラスの部分のみ相続できるので、借金はあるがもしかしたらプラスかもしれないというようなときに、有用だとされています(実際には、後述するように、使える局面がかなり限定されている微妙な制度です)。
この限定承認ですが、相続人が何人かいるときには、全員が共同して行なうことになっています。全員が同意しないと限定承認はできないのです。
以前の芸能ニュースで、ある芸能人が亡くなったとき、相続人Aは相続放棄するが、相続人Bは限定承認するというような報道がなされていました。このことは、相続人の全員が同意しないと限定承認はできない事と矛盾しないのでしょうか?
(共同相続人の限定承認)
第九百二十三条 相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。
目次
相続放棄をすることの効果
相続放棄が受理されると、放棄した人は、相続開始時に遡って相続人ではなかったことになります。はじめから相続人でなかったことになるのです。相続人でなくなったことにより、相続人でなければ得られない権利を失うと同時に、相続人が負わなくてはならない一切の義務を免れることができます。これが相続放棄の意味であり、相続放棄をする理由でもあります。
相続放棄と限定承認の関係
繰り返しになりますが、相続放棄をした人は、はじめから相続人でなかったことになります。そして、限定承認では、相続人の全員が共同して行なわないと(全員が同意しないと)、限定承認はできないとされています。
この「相続人全員」の中には、放棄した人は入るのでしょうか?結論を言うと入りません。相続放棄をした人は、はじめから相続人でなかったことになるので、「相続人」にカウントされないのです。
従って、相続人Aは単純承認するが、相続人Bは限定承認するということはできませんが、相続人Aは相続放棄するが、相続人Bは限定承認するということはできるのです。
限定承認はほとんど利用されていない
限定承認はほとんど利用されていない制度です。その理由はいくつかあると思いますが、私は次のような理由によると考えています。
ひとつは、そもそも、限定承認でなくてはならない場合があまりないのではないこというです。一般に相続放棄をできるのは3ヶ月以内であるとされていますが、この3ヶ月という概念は緩やかに解されている上、3ヶ月の期間を延ばす手続きもあります。その間に財産調査をすればよいので、プラスかマイナスか分からないという理由だけで限定承認を選ぶ必要はあまりないのではないでしょうか。
もうひとつは、手続の煩雑さです。詳述は避けますが、相続放棄と比べると集める戸籍も多くなるし、財産目録の添付も必要になります。
そして、最大の理由は、税務上の問題です。限定承認をすると、税制上は、亡くなった被相続人から相続人に財産を売却したことになり、譲渡所得(みなし譲渡所得)に所得税が課税されることになるのです。
こうした理由から、限定承認はあまり利用されていないと思うのです。
限定承認と「先買権」
限定承認をするメリットがある場合として、「先買権」を行使して、特定の財産飲みを承継する必要があるような場合があります。極論すれば、限定承認をする必要があるのは、このような事案しかないかもしれません。
限定承認がされると、プラスの財産は競売にかけられることなります。競売をする際、相続人が優先して購入することができるのです。この優先的に購入することがでいる権利を「先買権」といいます。
例えば、配偶者が住んでいる家があるような場合に、相続放棄を選択すると相続人ではなくなり、家の権利を失うので、限定承認した上で、競売の際に先買権を行使して、その家の所有権を取得することができる可能性が出てくるわけです。もっとも、あくまで先に買える権利というだけで、先に安く買える権利ではにないので、資金がない場合、このやり方で家の所有権を取得するのは難しいと思われます。
限定承認・「先買権」行使の例
借金があるが、家を失いたくなく、生命保険が受け取れるような場合、限定承認を行なうことで、その家に住み続けられる可能性があります。
限定承認をした上で、競売の際、先買権を行使し、生命保険金を代金の支払いに充てることができるからです。生命保険で、かつ、受取人に配偶者や子が指定されている場合、保険金は、相続放棄や限定承認終え凶を受けないことになります。保険金は相続財産ではなく、受取人固有の権利だからです。
ある程度の保険金が入ってくるとか誰かからお金を借りられるなどの事情で、先買権を行使できる目処がある場合、限定承認を検討してもよいのではないかと思います。
相続放棄した場合でも、受取人になっていれば、生命保険は受け取れますが、放棄した場合には、先買権が行使できないという大きな違いがあります。
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