相続登記が義務化されても焦る必要はありません
2024/03/30
2024年4月1日から相続登記が義務化されます。多くの方にとって、寝耳に水の話で、不安に思っている方もいらっしゃるかと思います。特に理由もなく、相続登記をせずに来た方はこれを機会に相続登記をした方が良いと思います。しかし、理由があって相続登記が出来ないでいる方や、何世代も前の名義のままの不動産があるような方は、決して、焦ることなく、これを機会に、じっくりと、相続登記をすべきなのか考えればよいと思います。少なくとも、今すぐに登記をしないからといって、すぐにペナルティが科せられるわけではないのです。また、ペナルティを逃れる方法もあります。
今すぐに、争いのある遺産相続を必ず解決しなくてはならないわけではないし、相続人が100人いるような相続を解決して必ず登記をしなくてはならないわけではないのです。
(相続等による所有権の移転の登記の申請)
第七十六条の二 所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も、同様とする。
2 前項前段の規定による登記(民法第九百条及び第九百一条の規定により算定した相続分に応じてされたものに限る。次条第四項において同じ。)がされた後に遺産の分割があったときは、当該遺産の分割によって当該相続分を超えて所有権を取得した者は、当該遺産の分割の日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。
3 前二項の規定は、代位者その他の者の申請又は嘱託により、当該各項の規定による登記がされた場合には、適用しない。
(過料)
第百六十四条 第七十六条の二第一項若しくは第二項の規定による申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、十万円以下の過料に処する。
※条文の一部を抜粋
目次
そもそも「義務」とは?
法律上、「義務」があるとはどのような事でしょうか?また、「義務」がある場合に、義務を果たさなかったらどうなるのでしょうか?
その答えは、「義務」それぞれによって、個別に見ていく必要があります。この点、相続登記の義務化とは、義務を果たさなかった時のペナルティとして、10万円以下の過料に処せられるというところに意味があります。義務を果たさなかったときでも何のペナルティもない単なる「努力義務」ではありませんが、一方で、義務を果たさないことが犯罪になるようなことでもないのです。
過料とは、 行政上の義務違反に対して科されるペナルティ(金銭的な罰)のことです。似て非なるもので、「科料」というものがありますが、「科料」が刑罰であるのに対し、「過料」は刑罰ではありません。
少なくとも3年の猶予期間がある
不動産登記法上、相続登記は、「自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内」に行うことが義務付けられています。逆に言うと、3年以内に行えばよいということになります。今すぐに登記しないとペナルティがあるわけではないのです。
正当な理由があれば、過料は科されない
相続登記義務化以降も、正当な理由があるときには科料に処せられることはありません。法務省によると、正当な理由がある場合とは次のような場合とされています。
・相続登記の義務に係る相続について、相続人が極めて多数に上り、かつ、戸籍関係書類等の収集や他の相続人の把握等に多くの時間を要する場合
・相続登記の義務に係る相続について、遺言の有効性や遺産の範囲等が相続人等の間で争われているために相続不動産の帰属主体が明らかにならない場合
・相続登記の義務を負う者自身に重病その他これに準ずる事情がある場合
・相続登記の義務を負う者が配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(平成13年法律第31号)第1条第2項に規定する被害者その他これに準ずる者であり、その生命・心身に危害が及ぶおそれがある状態にあって避難を余儀なくされている場合
・相続登記の義務を負う者が経済的に困窮しているために、登記の申請を行うために要する費用を負担する能力がない場合
正当な理由があれば、科料に処せられることはないのです。過料を恐れて、遺産分割協議で不本意な妥協をして、早く登記をしたりする必要はないのです。
(相続人である旨の申出等)
第七十六条の三 前条第一項の規定により所有権の移転の登記を申請する義務を負う者は、法務省令で定めるところにより、登記官に対し、所有権の登記名義人について相続が開始した旨及び自らが当該所有権の登記名義人の相続人である旨を申し出ることができる。
2 前条第一項に規定する期間内に前項の規定による申出をした者は、同条第一項に規定する所有権の取得(当該申出の前にされた遺産の分割によるものを除く。)に係る所有権の移転の登記を申請する義務を履行したものとみなす。
3 登記官は、第一項の規定による申出があったときは、職権で、その旨並びに当該申出をした者の氏名及び住所その他法務省令で定める事項を所有権の登記に付記することができる。
4 第一項の規定による申出をした者は、その後の遺産の分割によって所有権を取得したとき(前条第一項前段の規定による登記がされた後に当該遺産の分割によって所有権を取得したときを除く。)は、当該遺産の分割の日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。
5 前項の規定は、代位者その他の者の申請又は嘱託により、同項の規定による登記がされた場合には、適用しない。
6 第一項の規定による申出の手続及び第三項の規定による登記に関し必要な事項は、法務省令で定める。
相続人申告登記(相続人である旨の申出の制度)を利用すれば、過料は科されない
相続登記義務化と同時に、相続人申告登記制度も開始されます。この制度は、自分が相続人であるという事を申し出る制度ですが、この制度を利用すると、そうおz苦闘期をしなくても、相続登記申請義務を果たしたことになります。
主な例
相続登記が義務化されても、実際に過料が科されるのは、3年以上先の話になります。従って、どのような場合に過料が科されるのかは、今のところ不明です。それゆえに、はっきりしたことは言えませんが、いくつかの事例について、私なりに考えてみました。
例①相続人の中に認知症の人がいて遺産分割協議が出来ない場合
認知症になっている方自身は、「相続登記の義務を負う者自身に重病その他これに準ずる事情がある場合」にあたり、相続登記義務化の対象外となる可能性があります。一方で、「相続登記の義務を負う者自身に」とされているので、他の相続人は対象外とならない可能性が高いのではないでしょうか。
いずれも、現時点では義務化の対象となるのか不明のため、相続人申告登記を利用しておくのが無難かもしれません。
例②不動産の名義が昭和25年に死亡した曽祖父のままである
仮に、三次相続まで発生して、相続人が20人いる場合と仮定したとして、そのような場合、「相続登記の義務に係る相続について、相続人が極めて多数に上り、かつ、戸籍関係書類等の収集や他の相続人の把握等に多くの時間を要する場合」に該当するのでしょうか?「極めて多数」とは何人くらいのことなのでしょうか?20人は、多数であることは間違いありませんが、「極めて多数」なのかは疑問が残るところでもあります。「極めて多数」でかつ「戸籍関係書類等の収集や他の相続人の把握等に多くの時間を要する場合」とは、例えば、子だくさんの時代で兄弟がたくさんおり、相続人が配偶者と兄弟姉妹の相続で、二次相続、三次相続も発生し、被相続人の甥姪と配偶者の甥姪が相続人になっているようなケースなのかもしれません(配偶者の兄弟と自分の兄弟ならまだしも、それぞれの甥姪同士となるとかなり疎遠だと思われます。さらに、甥姪の子が相続人となるような場合、相続人が多数であり、かつ、把握も(一般の方には)困難だとは思います)。
この場合も、現時点では義務化の対象となるのか不明のため、相続人申告登記を利用しておくのが無難かもしれません。
例②50年前に死亡した祖父名義の山林(価値ゼロ)がある。
仮に、相続人が10人いるとします。このような場合に、費用をかけてまで、相続登記をする必要があるのでしょうか?例えば、二次相続まで発生しているとして、一時相続の被相続人と二次相続の被相続人の戸籍を出生から死亡まですべて取るとすると、いったい全部で何通必要なのでしょうか?また、10人との間で遺産分割協議書(遺産分割協議証明書)を作成し、署名捺印するとしたら、どれくらいの手間がかかるのでしょうか?さらに、その手続きを専門家に頼んだら、報酬はいくら発生するのでしょうか?
この説例は、費用対効果を考える意味で作成したものです。相続登記が義務化されたからといって、無価値の土地の名義を変えるのに、手間と費用をかける必要があるのでしょうか??このような場合、相続登記を行う手間と費用を考えたうえで、割に合わないというのであれば、相続人申告登記を利用して義務だけ果たしておくことを検討すべきだと思います。
今回の義務化では、無価値の不動産について、所有者不明土地をなくすということにはつながらないと思います(おそらくは、すでに発生している所有者不明土地について解決するというよりは、これから所有者不明土地を発生させないようにするという、予防的な目的が主なのだろうと思います)。所有者不明土地をなくすという目的を根本的に果たすという意味では、相続登記義務化には限界があり、所有権を放棄できるようにしたり、例えば、100年登記申請がされておらずかつ現況未利用の土地については、公告しても権利者が現れないときには国庫に帰属するとか、相続登記の義務化とは異なるアプローチをすべきであろうと思います。
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