相続登記義務化 本当に過料が科されることはあるのか??
2024/04/12
2024年4月1日から相続登記が義務化されましたす。義務化されると、相続登記をせずに三年間放置しておくと10万円以下の過料が科される可能性があります。では、実際に過料が科せられるケースは本当にあるのでしょうか?専門職の間でも、積極的に科されるのではないかという意見と事実上科されることはないのではないかという意見があり、正直なところ、現状では、よくわからないというのが正直なところです。
私は、これだけ大々的に改正したのだから、少なくとも数件は過料に処せられるケースが出てくると思っています。その一方で、現状を前提とする限り、過料が科されるケースはあまりないのではないかと思うこともあります。今回は、過料が科されることはほとんどないのではないかという過料消極の根拠の一つをご紹介したいと思います。
法務省民二第927号(令和5年9月12日)
「民法等の一部を改正する法律の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて(相続登記等の申請義務化関係 (通達)」より、一部抜粋(筆者により、一部太字にしています)
2 登記官が申請の催告を行う端緒
登記官は、次に掲げるいずれかの事由を端緒として、改正不登法第76条の2第1項若しくは第2項又は第76条の3第4項の規定による申請をすべき義務に違反したと認められる者があることを職務上知ったときに限り、申請の催告を行うものとする。
① 相続人が遺言書を添付して遺言内容に基づき特定の不動産の所有権の移転の登記を申請した場合において、当該遺言書に他の不動産の所有権についても当該相続人に遺贈し、又は承継させる旨が記載されていたとき
② 相続人が遺産分割協議書を添付して協議の内容に基づき特定の不動産の所有権の移転の登記を申請した場合において、当該遺産分割協議書に他の不動産の所有権についても当該相続人が取得する旨が記載されていたとき
目次
法務省民事局長通達
今回引用したのは、全国の法務局長に充てた、法務省民事局長の通達です。
法務省民事局長の通達といってもなじみが薄いと思いますが、法務局や登記実務は通達に基づいて運用がなされているのです。今回引用したのは、通達のうち、「相続登記等の申請義務化関係」のものになります。
過料が科されるまでの流れ
通達によると(今回引用していない部分に書かれています)、過料は、登記官が 裁判所へ過料通知を行い、裁判所が決定することで科されることになります。
ここからが重要なのですが、 登記官はやみくもに、裁判所に過料通知を行なうわけではありません。不動産登記規則では、「申請をすべき義務に違反して(略)過料に処せられるべき者があることを職務上知ったときは、これらの申請義務に違反した者に対し相当の期間を定めてその申請をすべき旨を催告し、それにもかかわらず、その期間内にその申請がされないときに限り、遅滞なく、管轄地方裁判所にその事件を通知しなければならない」となっています。
過料に処せられるべき者があることを職務上知ったときには、裁判所に過料通知を行なう前には、必ず、当事者に催告をしなくてはならないことになっています。そして、この「職務上知ったとき」とはいかなる場合なのかが、この通達には記載されているのです。
事前催告の端緒とは
「端緒」という言葉を聞いたことがないという方も少なくないと思いますが、「端緒」とは物事の始まり、スタートのことです。「端緒」として定められた事柄により、手続は始まっていくわけです。「端緒」がなければ、催告もないし、当然、過料が科されることもないのです。
今回引用した通達でポイントとなる部分は二つです。「いずれかの事由を端緒として」という部分と「限り」という部分です。つまり、現状では、通達で言及されている二つの場合しか、過料が科されることはないということになります。「限り」となっているので、この二つのいずれかの場合しか、端緒になり得ないわけです。例示ではなく、限定列挙というわけです。
通達上、催告の端緒とされている事柄
通達上、催告の端緒とされている事柄とはどのような事柄なのでしょうか。
通達では、遺言書を添付して特定の不動産の所有権の移転の登記を申請した場合で、遺言書に記載されている他の不動産の所有権の登記申請がされなかったことと、遺産分割協議書を添付して特定の不動産の所有権の移転の登記を申請した場合において、遺産分割協議書に記載されている他の不動産の登記申請がなされなかったことの二つの事柄を登記官が知ったときに限り、事前催告をするとされています。
しかも、「当該相続人」という言葉も書かれています。これが意味することは、例えば、ある遺言に、「相続人AにX不動産を、相続人BにY不動産を相続させる」と記載されているような場合で、相続人Aのみが登記申請をし、相続人Bが登記申請をしなかった場合には、相続人Bに事前催告はされないということです。一方、「相続人AにX不動産及びY不動産を相続させる」と記載されているような場合で、相続人AがX不動産については登記申請をしたが、Y不動産については登記申請をしなかったような場合に催告がなされると読み取れるはずです。
しかし、このような場合がどれくらいあるのでしょうか??
通達を前提とするならば、過料はかなり限定的なはず
今回引用した通達が活きている限り、過料が科される場面はほとんどないように思われます。少なくとも、例えば、登記官が100年登記申請がない不動産について、職権で相続人調査をし、事前催告を送付するなどということはないと思われます。
現状では、極めて限定的な二つの事例にあたる事柄を、積極的に探すのではなく、登記官がたまたま見つけたときに、それを端緒として、事前催告が行なわれる(過料が科される可能性が生じる)ということだと思われます。
相続登記義務化はアナウンス効果を狙ったものか
仮に、相続登記義務化以降も事実上、過料が科されるケースがほとんどないとすると、相続登記義務化とは、義務化が大々的に取り上げられることで生じる、アナウンス効果で、相続登記を促すことが目的なのかもしれません。
逆に言うと、その程度のものと捉えて、義務化に踊らされず、どう対処するかを慌てずじっくりと考えればよいのではないでしょうか。
通達は通達に過ぎない
注意点として、通達はいつ変わるか分からないし、法律でもなければ、省令や規則ですらないということがあげられます。いつでも変わる可能性があるし、実際に運用されていないので、未知数であることは否めません。推測はできても、こうなると断言はできないのです。
相続人申告登記を利用すれば過料は科されない
相続登記義務化と同時に、相続人申告登記制度も開始されます。この制度は、自分が相続人であるという事を申し出る制度ですが、この制度を利用すると、相続登記をしなくても、相続登記申請義務を果たしたことになります。
実際に過料が科される事案がどれくらい出るのか微妙だとはいえ、安全を期すなら、素酢億人申告登記をしておくのがよいのではないでしょうか。
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