換価分割の注意点
2024/04/27
相続手続きをするには、まず、遺産分割協議をして、相続人間の分割方法(財産の分けかた)を決めます。そして、相続人間で合意した分けた方に従って、相続手続きを進めていきます。遺産分割の方法は、3種類あります。現物分割、代償分割、換価分割です。今回はこのうち、換価分割の注意点についてまとめてみました。
〈遺産分割の方法〉
現物分割;現物を分ける方法
現物分割A:現物を持分で分ける
現物分割B:現物を文字通り分割して分ける(不動産であれば分筆して分ける)
代償分割:現物を取得する人が、他の相続人に対してその代償として金銭等を支払う
換価分割:相続財産を売却して、売却代金を分割する
目次
換価分割とはとは?
換価分割とは、文字通り、不動産等を換価(売却)して、その売却代金を一定の割合で分割する(分け合う)ことをいいます。
相続財産である不動産を今後使うことがない場合や、相続財産が不動産のみの場合、代償金が支払えないような場合に用いられる方法です。
換価分割と税金
相続の際に発生する税金と聞いて、ほとんどの方は、相続税を思い浮かべるはずです。それ以外の税金を意識する方はあまりいないのではないでしょうか。
換価分割以外の分割方法では、相続税以外の税金について意識する必要はあまりないと思います。唯一、換価分割では、相続税以外の税金についても意識する必要があります。譲渡所得税です。
換価分割が、財産の売却(譲渡)を伴うのである意味当然ですが、譲渡の際に利益(譲渡所得)が発生すれば、それに伴い、譲渡所得税も発生するのです。
なお、譲渡所得税は、不動産の換価分割のときだけでなく、株式等の換価分割においても発生しうるものです。
取得価額について
換価分割をした場合の譲渡益とは、取得価格と売却価格の差額になります(正確には経費等も差し引けますがここではその要素は考慮しないものとします)。ここで、取得価格とは何を指すのでしょうか?
換価分割における取得価格とは、相続発生時の価格(相続により相続人が取得した価格)を指すのではありません。被相続人等が取得したときの価格を意味します。被相続人の先代が取得した時には、その価格となります。
その結果、取得価格が非常に安いものになる可能性があります。例えば、昭和30年くらいに、被相続人もしくはその先代が調布や狛江の土地を取得したとします。その頃の土地の価格は現在とは比較にならないくらい安かったはずです。仮に、300万円で取得したとして、それを3000万円で売却したとしたら、2700万円が譲渡益となってしまいます。
取得価格がわからない場合には
そもそもの問題として、取得価格がいくらかわからないこともあります。60年以上も前の売買契約書や領収書を取ってあるとは限らないからです。そのような場合、売却価格の5%を取得価格とみなす制度があります。この場合、売却価格の95%が譲渡益となり、これをもとに譲渡所得税を計算することになります。このような場合、非常に高い譲渡所得税が発生する可能性が出てきます。
同じような問題は株式でも生じます。実際に私が経験した例だと、株券電子化前から取得している、取得時期や取得方法について不明な株につき、電子化の手続きを怠り、信託銀行の特別口座で管理している株式がありました。これを売却し、税理士に依頼して、売値の95%を利益として、申告してもらいました。
譲渡所得が生じると不利益が生じる可能性も
換価分割の場合で、売却益が出る場合、売却代金を取得する全員に、譲渡所得が発生し、申告義務が生じます。
ここで、所得が発生することで、相続人の中に不利益が生じる人がいないかに留意する必要があります。譲渡所得の額によっては、扶養から外れる可能性が出てくる人がいるかもしれません。年金生活者の場合、所得が生じ、住民税が課税になることで、非課税であるがゆえに受けられていた措置が受けられなくなる可能性が生じえます。例えば、価格高騰臨時給付金が受け取れなくなるとか、介護保険や後期高齢者医療保険料が上がるとか、介護や医療の限度額認定が受けられなくなるとか、負担割合が上がってしまうとか、そうした事柄にも留意しなくてはなりません。
こうした事情から、相続人の中に、換価分割は嫌だという人がいる場合、その相続人については、代償金を支払うことを検討することもあり得ます。代償金を受け取る方法であれば、その方に「所得」が生じることはなく、社会保険料等への影響を回避できるからです。
換価分割といわゆる「家なき子の特例」について
換価分割の場合、売却代金を取得する全員が実質的には物件を取得することになります。相続税にはいくつかの特例がありますが、例えば、小規模宅地の特例というものがあります。
被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
相続または遺贈により取得した被相続人居住用家屋または被相続人居住用家屋の敷地等を、平成28年4月1日から令和9年12月31日までの間に売却して、一定の要件に当てはまるときは、譲渡所得の金額から最高3,000万円まで控除することができます。
換価分割一般の時はもちろん、取得価格がわからないようなときには、非常に有用な特例です。
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