所有者不明土地の解消と遺言の活用
2024/05/18
所有者不明土地問題の解消と遺言の活用
現在、所有者不明土地問題は大きな社会問題となっています。その解消方法の一つとして始まったのが、相続登記の義務化です。しかし、この相続登記義務化は、現在の運用方法を前提とするなら、義務化自体に実効性があるのか疑義があるうえに、所有者不明土地問題の解消にはつながらないと思います。相続登記義務化については、何回か文章を書いているので、そちらをご覧ください。
所有者不明土地問題の解消は、すでに生じている所有者不明土地については、所有権の放棄や一部財産のみの相続放棄を認めるような新制度が本命だと思います。過料という「罰」によって相続登記を強制する制度では解決しないし、しかも、その「罰」が科されるケースが極めてレアであるような運用をしていては、効果はあるはずがありません。相続登記義務化は、テレビや新聞で取り上げられることで、相続登記を促すというアナウンス効果は十分にあったし、その意味で一定の成果があったことまでは否定しませんが、逆に言うと、それ以上の意味はあまりないというのが正直な感想になります。実効性のある解消法は、「罰」を与えるという方法ではなく、義務から逃れられる制度の創設だと思うのです。
それと同時に、遺言を推奨する、遺言を残しやすくするといった、遺言を活用する形での、所有者不明土地の解消も重要だと思います。
「遺産分割協議が成立しない」問題
所有者不明土地が生じる(相続登記が放置される)問題が生じる要因は、大きく三つあると思います。ひとつは、田舎の農地や山林、価値の低い別荘地等で発生する、「負動産」問題、主に田舎の農地や家屋で発生する、使う分には困らないから費用をかけてまで相続登記をしたくないと考えて相続登記をしないという問題、遺産分割協議が成立しない問題の三つです。
「負動産」問題については、一部財産についての相続放棄や所有権放棄の制度が創設されないと解決は困難だと思います。二つ目の、使う分には困らないから費用をかけてまで相続登記をしたくないと考えて相続登記をしないという問題は、相続登記義務化のアナウンス効果が活きれば、解消されるのではないかと思います(義務化の効果があるとすればまさにここです)。
三つ目の遺産分割協議が成立しない問題について、遺言作成という解消方法の提示と、現行制度では、完全には解消できないことについての問題提起をするのが、今回の主な内容です。
〇遺言の活用
ある不動産について、相続が発生した後の相続人間の話し合いである遺産分割協議をしなくても済む方法としては、生前に遺言を残しておくという方法が考えられます。
遺産分割協議とは遺産についての相続人間の話し合いのことですが、相続人にはそれぞれ、一定の割合で相続財産を取得する権利があるので、話し合いがつくとは限りません。預金のようなものは比較的分割が容易ですが、不動産や株式(株式の中でも、投資目的で購入される上場株式ではなく、家業である会社の未公開株など)は分割が困難な場合が少なくありません。不動産には「持分」という概念があるので、「持分」で分けることもできなくはないですが、ここではその可否には深入りしない事にします。
遺産分割協議が上手くいかない可能性があるのであれば、生前に遺言を残しておき、不動産をだれが取得するか決めておくという方法で解決できないか検討してみてはどうでしょうか。遺言を残しておくことで、遺産分割協議ができず、相続登記を放置するという事が防げる可能性は大いにあると思います。
〇「遺留分」という問題
遺言を残したとしても、遺言者の希望は100%実現されるとは限りません。それは、「遺留分」制度の存在があるからです。私が、「現行制度では、完全には解消できない」と前述したのも、遺留分を前提にしたうえでのことです。遺留分とは、法定相続人に対して保障されている遺産取得分のことです。例えば、遺言で取得分がゼロ円とされている相続人でも、遺留分に相当する財産は取得する権利があるのです。
ただし、遺留分に該当する財産が自動的に取得できるのではなく、遺留分を侵害している人に対して遺留分侵害額請求をして、初めて遺留分に相当する財産を取得することが出来るのです。侵害額請求を行わなければ、遺留分相当額を取得することはないのです。また、現在の制度では、遺留分の請求は金銭で行われることになっています。かつての遺留分減殺請求では、不動産について減殺請求をして、結果、不動産が共有になるようなこともありましたが、現在の制度では、遺留分侵害額を金銭で請求することになっているので、不動産に共有関係が発生するような問題は一応は解消されています。
遺留分減殺請求から遺留分侵害額請求という金銭による請求に変わって、遺留分により、不動産の共有関係が生じてしまうという問題は解消しましたが、現制度でも問題はまだ残っています。遺留分に相当する金銭の請求がなされたときに、金銭の支払いに応じられない場合、結局、不動産を売却して、遺留分に相当する金銭をねん出する必要が生じるからです。
このように遺留分という問題があるので、遺言は遺留分について留意したうえで作成する必要があります。
〇遺留分に配慮した遺言を
預金や有価証券がある場合、遺留分に配慮し、遺留分権利者に対しては、遺留分に相当する預金や株式を相続させるように遺言を残すことを検討すべきであると考えます。遺留分というのは全体財産についての割合なので、具体的にはいくらなのか明確でなく、金額をめぐる争いが生じる可能性は否定できません。しかし、不動産を取得する人以外に、遺留分相当の他の財産を取得させるようにしておけば、遺留分の問題は一定程度解消されるはずです。
〇預金等が無いケース
例えば、自宅不動産を同居している長男に相続させたい、二男や三男に残すような預金はないという場合を想定してみます。
唯一の財産である不動産を長男に相続させるという遺言を残しておけば、遺産分割協議をせずに、その不動産を長男が相続することが出来ます。ただし、二男三男から遺留分侵害額請求をされる可能性があります。
このような場合、一つの方法として、長男が、遺留分侵害額請求に備えて、現金(預貯金)を用意しておくことが考えられます。遺留分侵害額請求がなされた場合に支払う金銭は相続財産から捻出する必要はなく、相続人の財産から支払っても問題ないからです。
お金を用意しておくことは無理だと考えるかもしれませんが、たとえば、相続発生の20年前から準備しておけば、遺留分相当額の金銭を準備しておくことも、ハードルは高くないのではないかと思います。
〇遺言の活用
現在、日本では、遺言はあまり活用されていません。しかし、遺言を残しておくと、相続人の事務手続き的負担は減るし、遺産分割協議が不要になるという大きなメリットがあります。「遺留分」という注意点はありますが、遺言を残しておく人が増えれば、所有者不明土地の解消にもつながるはずで、国としても、遺言の活用をもっと前面に出していくべきだと思います。
〇遺留分制度の見直しを
遺言を所有者不明土地の解消にもつなげるという観点では、遺留分制度の見直しをして、遺言をもっと使いやすくすることも必要なのではないかと思います。遺留分には、そもそも、自分で築いた財産について、なぜ、自分の希望通りにわけることが出来ないのか(遺留分とい制限が生じるのか)という問題がありますが、残された相続人の生活に考慮するとして、配偶者には手厚い遺留分を保障すると同時に、子どもの遺留分は減らすとか、直系尊属の遺留分は無くす等の改正があってもよいと思います。
また、遺留分を考える際に、相続財産が自宅不動産のみであるような場合と、資産が10億円ある場合を同列に考えてよいのかなど、資産内容や資産額を考慮した遺留分制度があったもよいのではないかと思います。
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