遺言作成講座① 遺言作成前に相続人が誰かを知ろう
2024/05/01
遺言作成と推定相続人の構成について
推定相続人とは、相続が開始したときに相続人になるであろう人のことです。相続が開始するまでは、相続人ではなく、「推定」相続人なのです。遺言を作成する際には、自分が亡くなった時に相続人は誰になるのか、その法定相続分はどれくらいになるのか、遺留分はあるのか等の相続人の構成を知ることが非常に重要になります。
相続人の構成と財産の分配方法によっては、遺言が不要な場合もあります。例えば、相続人が子ども2人の場合に、財産を2分の1ずつ相続させたいというような場合、遺言の必要性はかなり低いと思われます。
以上のようなことから、遺言作成講座の第一回として、(推定)相続人は誰かについて考えてみたいと思います。
なお、当事務所のホームページには、相続人は誰?というページ間あるので併せてお読みいただけると幸いです。
(子及びその代襲者等の相続権)
第八百八十七条 被相続人の子は、相続人となる。
2 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
3 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。
第八百八十八条 削除
(直系尊属及び兄弟姉妹の相続権)
第八百八十九条 次に掲げる者は、第八百八十七条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
二 被相続人の兄弟姉妹
2 第八百八十七条第二項の規定は、前項第二号の場合について準用する。
(配偶者の相続権)
第八百九十条 被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第八百八十七条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。
相続人と順位
相続人については、民法で様々な場合について定められていますが、ほとんどの相続では、887条から890条までの規定を押さえておけば大丈夫です。民法のこの部分では、相続人の順位と代襲相続について定められています。
配偶者は必ず相続人になる
配偶者がいる場合、必ず相続人になります。子がいるか、兄弟がいるか等に関係なく、配偶者は必ず相続人になります。
ただし、離婚した場合や、法律婚をしていない場合、同性婚のカップルには相続人とはならないので、注意が必要です。
第一順位の相続人は子である
子がいる場合には、配偶者とともに相続人になります。配偶者がいない場合、子のみが相続人となります。子がいる場合、第二順位以下の相続人が相続人になることはありません。
被相続人によりも子が先に死亡している場合で、子に直系卑属である子がいる場合、代襲相続が発生し、子の子である孫が相続人となります。この場合も、第二順位以下の相続人が相続人となることはありません。
子には養子を含みますが、養子とは養子縁組をしている(法的に正式に養子になっている)必要があります。事実上の養子や配偶者の連れ子で養子縁組をしていない人は相続人にはなりません。
第二順位の相続人は直系尊属である
第一順位の相続人が一人もいないときには、配偶者とともに、直系尊属が相続人となります。配偶者がいない場合、直系尊属のみが相続人となります。直系尊属間では、親等の近いものが優先されます。例えば、父か母のいずれが存命の場合に、祖父母が相続人となることはありません。
被相続人が養子の場合、養方の直系尊属も実方の直系尊属も相続人となる可能性があります。一方、親が再婚した場合の親の配偶者は、養子縁組をしていない限り、姻族に過ぎないので相続権はありません。
第三順位の相続人は兄弟姉妹である
第一順位・第二順位の相続人が一人もいない場合、配偶者とともに、兄弟姉妹が相続人となります。配偶者がいない場合には、兄弟姉妹のみが相続人となります。兄弟姉妹の場合にも、代襲相続があるので、相続人となるはずだった兄弟姉妹が先に死亡している場合、甥姪が代襲して相続人となります。ただし、兄弟姉妹には再代襲はないので、甥姪が先に亡くなっているときに、甥姪の子が相続人となることはありません。
なお、法定相続分の所で触れますが、父母の片方を同じくする兄弟は父母の両方を同じにする兄弟の2分の1が法定相続分となります。
代襲相続について
代襲相続についての詳細は、代襲相続についてのページにまとめてあるので、そこをご覧ください。
(法定相続分)
第九百条 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
(代襲相続人の相続分)
第九百一条 第八百八十七条第二項又は第三項の規定により相続人となる直系卑属の相続分は、その直系尊属が受けるべきであったものと同じとする。ただし、直系卑属が数人あるときは、その各自の直系尊属が受けるべきであった部分について、前条の規定に従ってその相続分を定める。
2 前項の規定は、第八百八十九条第二項の規定により兄弟姉妹の子が相続人となる場合について準用する。
法定相続分について
法定相続分については、民法900条及び901条に規定があります。以下に場合分けして、法定相続分について説明いたします。なお、前述の「相続人と順位」にて説明したようにある人が相続人になるかについてはいくつかのルールがありますが、そもそも、相続人とならない人は相続分を有しませんので、ご注意ください。
相続人が配偶者と子である場合
相続人が配偶者と子である場合、配偶者の法定相続分は2分の1となります。残りの2分の1が子の相続分となります。子が複数人いる場合、子の相続分である2分の1を複数人で等分します。例えば、子が2人いる場合、2分の1の2分の1である、4分の1ずつが、子2人のそれぞれの相続分となります。
相続人が子のみである場合
相続人が子のみである場合、子が均等に相続分を有します。子が2人なら2分の1ずつ、子が3人ならば3分の1ずつの相続分を有します。
相続人が配偶者と直系尊属である場合
相続人が配偶者と直系尊属である場合、配偶者の法定相続分は3分の2となります。残りの3分の1が相続人となる直系尊属の相続分となります。相続人となる直系尊属が1人なら3分の1となります。相続人となるべき直系尊属(親等を同じくする直系尊属)が複数人いる場合、直系尊属の相続分である3分の1を複数人で等分します。例えば、相続人となるべき直系尊属が2人いる場合、3分の1の2分の1である、6分の1ずつが、直系尊属2人のそれぞれの相続分となります。
直系尊属が3名いる場合には、3分の1の3分の1である、9分の1ずつが、直系尊属3人のそれぞれの相続分となります。前述の通り、被相続人が養子の場合、養方の直系尊属も実方の直系尊属も相続人となる可能性があるので、直系尊属が3名という事もあり得るのです。
相続人が直系尊属のみである場合
相続人が直系尊属のみである場合、全ての相続分を直系尊属が取得します。直系尊属が複数人いる場合、人数割りで均等に相続分を有します。直系尊属が2人なら2分の1ずつ、直系尊属が3人ならば3分の1ずつの相続分を有します。
相続人が配偶者と兄弟姉妹である場合
相続人が配偶者と兄弟姉妹である場合、配偶者の法定相続分は4分の3となります。残りの4分の1が兄弟姉妹の相続分となります。相続人となる兄弟姉妹が1人なら4分の1となります。共済姉妹が複数人いる場合、兄弟姉妹の相続分である4分の1を複数人で等分します。例えば、兄弟姉妹が2人いる場合、4分の1の2分の1である、8分の1ずつが、兄弟姉妹2人のそれぞれの相続分となります。
ただし、兄弟姉妹の相続の場合には、いわゆる「半血兄弟」の相続分に注意する必要があります。この点については、別に項目を設けてご説明します。
相続人が兄弟姉妹のみである場合
相続人が兄弟姉妹のみである場合、全ての相続分を兄弟姉妹が取得します。兄弟姉妹が複数人いる場合、人数割りで均等に相続分を有します。兄弟姉妹が2人なら2分の1ずつ、兄弟姉妹が3人ならば3分の1ずつの相続分を有します。
ただし、この場合にも、いわゆる「半血兄弟」の相続分に注意する必要があります。
代襲相続の場合の法定相続分について
代襲相続の場合、代襲の結果相続人となる人の法定相続分については、民法901条に規定があります。以下に場合分けして、法定相続分について説明いたします。なお、「被代襲者」とは本来相続人となるはずだった人のことで、「代襲相続人」とは代襲相続の結果、相続人となる人のことです。
代襲相続人が一人の場合
代襲相続人が一人の場合には、被代襲者が取得するはずだった相続分をそのまま取得します。例えば、被代襲者である子の相続分が2分の1である場合、代襲相続人は2分の1をそのまま取得します。
代襲相続人が複数人である場合
代襲相続人が複数である場合、被代襲者の相続分を均等割りします。ある被代襲者の相続分が2分の1である場合、代襲相続人が3人なら、6分の1が代襲相続人の相続分となります。
※注意点:被代襲者が複数の場合
被代襲者が複数の場合、被代襲者を同じくする代襲相続人をグループとして考え、法定相続分を計算します。
例えば、配偶者のいない被相続人に子Aと子Bがおり、いずれも被相続人よりも先に死亡していたとします。この場合、代襲相続が発生し、Aの子のC・D、Bの子のE・F・Gが相続人となります。相続人は5人となりますが、Cの相続分は5分の1ではありません。Cの相続分は、Aが取得するはずだった2分の1の2分の1の4分の1になります。Dの相続分も4分の1です。一方、Eの相続分はBが取得するはずだった2分の1の3分の1の6分の1です。F・Gの相続分も6分の1となります。
注意点①半血兄弟の相続分
900条4号但し書きについて
民法900条4号但し書きには、「ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。」と記載されています。父母の一方のみを同じくする兄弟を「半血兄弟」と呼ぶことがあります。父違い、母違いの兄弟のことです。
この半血兄弟は、両親を同じくする兄弟の相続分の2分の1が法定相続分になります。
例えば、ある被相続人の相続人が兄弟姉妹のみだったとします。そのうち、A、B、Cは父母を同じくする兄弟でE、Fは母親のみが同じ兄弟だったとします。このとき、A、B、Cの法定相続分は4分の1、E、Fの法定相続分は4分の1の2分の1の8分の1になります。
注意点②嫡出でない子の相続分
かつては、民法900条4号但し書きに「嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の2分の1とし」と規定されており、嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の2分の1であるとされていました。この点については、憲法14条の定める「法の下の平等」に反しないか議論がありましたが、違憲判決が出ました。それを受けて、平成25年12月4日、「民法の一部を改正する法律」が成立し、民法900条4号但し書きの前半部分の「嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の2分の1とし」の部分は削除されました。
新法が適用されるのは平成25年9月5日以後に開始した相続
4号但し書きの一部を削除した新法は,最高裁判所による決定がされた日の翌日である平成25年9月5日以後に開始した相続について適用することとされています(附則第2項)。相続は被相続人の死亡によって開始するので、これ以降に被相続人が死亡した相続に適用されることになります。
それ以前に開始した相続について
それ以前に開始した相続については、その時期によって扱いが変わってくるのですが、その詳細は省略します。
注意点③いとこ・事実婚のパートナー・同性婚のパートナー
現在の法律では、いとこ・事実婚のパートナー・同性婚のパートナー等、法律的に親族関係になり方々は相続人とはなりません。
※遺言がない場合、いとこ・事実婚のパートナー・同性婚のパートナーはどうしたらよいか
遺言を遺すことを考える場合、遺言がなかったらどうなるのかを考えることが大切です。そこで、遺言がない場合、いとこ・事実婚のパートナー・同性婚のパートナーは、遺産を取得するにはどうしたらよいのかについて簡単に考えてみます。この点についての詳細は、後日、遺言を遺した方が良いケースとして、詳しくお話したいと思います。
相続人がいる場合、遺言なしに、これらの方が遺産を取得するのは困難です。
相続人がいない場合、特別縁故者に対する相続財産の分与(民法958条の2)という制度はありますが、手続きに時間がかかるうえに、特別縁故者として認められない可能性もあります。
このようなことから、いとこ・事実婚のパートナー・同性婚のパートナーなどに遺産を残したい場合、遺言を遺すか養子縁組を検討するなど、生前対策が必須となります。
注意点④離婚した先妻の子
離婚した配偶者の子と、何十年も音信不通であるという事は珍しくありません。誤解している方がいるので書いておきますが、離婚した配偶者の子も相続人となります。日本には、例外的な場合を除き、親子関係がなくなるような制度はありません。勿論、両親の離婚により、親子関係がなくなることはありません。50年会っていなかったとしても、先妻の子は相続人となります。
なお、離婚により親族関係はなくなるので、離婚した先妻は相続人とはなりません。
遺留分について
遺留分については、別途詳細にご説明します。ここでは、兄弟姉妹には遺留分がないということのみ確認するにとどめます。
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