おひとり様・おふたり様と家族信託 ( 受託者問題 )
2025/02/07
家族信託の問題点
家族信託は、比較的新しい制度ですが、非常に注目されている制度です。ブームの時期は終わり、定着の時期に入っていると思います。家族信託は、一過性のブームでは終わらず、社会的評価を得たと言えるでしょう。
家族信託は、元気なうちに、受託者と信託契約を結び、老後に備えるものです。認知症になったあと等の老後に備える事もできるし、後継受益者 ( 二次受益者・三次受益者 ) を定める事により、遺言の役割を果たすこともできます。
おひとり様・おふたり様にとっても、非常に魅力的な制度化と思いますが、家族信託には二つの大きな課題があります。ひとつは、家族信託だけでは、身上監護面をカバーすることが出来ないこと、もう一つは受託者を誰にするかという問題です。前者の問題は、任意後見契約や財産管理契約を併用することによって解消されますが、後者の問題はなかなかやっかいです。
受託者を誰にするかということは、言い換えると、受託者になってくれる人はいるかということです。おひとり様・おふたり様の場合、受託者が見つかるかという問題は、高いハードルだし、受託者が見つからずに家族信託をあきらめる人もいるのが現状です。
司法書士や弁護士は受託者にはなれない
当然の疑問として、家族信託を依頼した司法書士や弁護士などに、受託者もやってもらえないのかという問いがあると思います。例えば、先ほど触れた、任意後見契約や財産管理契約では、ご家族だけでなく、司法書士や弁護士、あるいはNPOなどを任意後見人候補者等にすることができます。遺言を作る際に定める遺言執行者も専門職等になってもらうことができます。
なぜ、司法書士や弁護士は家族信託の受託者になれないのでしょうか?
信託業法
(免許)
第三条 信託業は、内閣総理大臣の免許を受けた者でなければ、営むことができない。
その根拠は、信託業法3条にあります。各種会社や団体も受託者にはなれないのが基本です。業として受託者になるためには、信託業の免許が必要だからです。例えば、商事信託では、信託銀行などが受託者となりますが、信託銀行は信託業の免許を得たうえで、受託業務を行っているわけです。
信託業とか、業として行うという場合、業や業務という言葉の概念が問題となりますが、ここでは深入りしないでおきます。少しだけ触れておくと、業務とは、反復継続的に行うとか不特定多数相手に行うとかいうことをさし、報酬を得るかどうかは問いません。また、少なくとも私は、専門職等がその件のみの受託者になり、他の件では受託者に絶対にならないとしても、信託業法に抵触するおそれがあると思います。
これが、司法書士や弁護士が受託者になれない理由です。
※家族信託において、一般社団法人等を設立して受託者にするやり方がありますが、その信託のみの受託者になるような法人は、反復継続して信託業を営んでいるとは言えないので、信託法の免許は不要です。ご家族等が受託者になる場合も同様です。一方、司法書士や弁護士、NPO、社会福祉法人が受託者になるのは、信託法に抵触するおそれがあります。、一般人でも複数の信託の受託者となるような場合には、信託法に触れるおそれがあると思われます。
いとこやいとこの子供、友人でも受託者になれる
「家族信託」と呼ばれることから、受託者は家族でなければならないようにも思えますが、お子様やきょうだい、甥姪だけでなく、いとこやいとこの子、知人や友人も受託者にすることができます。
もっとも、受託者には強い権限と義務が生じるので、ご家族以外を受託者にするような場合には、ご家族を受託者とするとき以上に、慎重に、時間をかけて進めていくべきだと思います。
具体的な選択肢について
これまでお話ししてきたことを前提に、おひとり様、おふたり様は、家族信託における受託者をどうすればよいかについて考えてみたいと思います。
広い意味での「 親族 」がいる場合
おひとり様・おふたり様といっても、全く親族がいないような場合から、兄弟や甥姪などの推定相続人がいたり、推定相続人はいなくてもいとこやその子供などの広い意味での親族がいる場合と、そうした親族がいなかったり、いても頼りたくない場合があります。
前者の場合 ( 広い意味での「親族」がいる場合 ) は、それらの人たちに受託者になってくれるよう頼むことを検討することになります。それらの人たちが受託者になってくれるのであれば、問題が解決する可能性が出てきます。
ただし、そのような親族がいても、信用できなかったり、不安を感じるのであれば、安易に受託者にすべきではないと思います。
広い意味での「親族」がいない場合・頼りたくない場合
推定相続人にあたるような、狭い意味での「親族」がいないような場合には、推定相続人にこだわらず、いとこやいとこの子どもなども含め、ご親族の中で、受託者にふさわしくて、かつ、受託者になることを引き受けてくれるような親族(必ずしも民法上の親族であるかにこだわる必要はありません)に受託者になってもらえないか話をしてみてはどうでしょうか。
真に信頼できる人であるならば、親族ではなく、知人や友人でも受託者になることはできます。これはと思う方がいる場合、お声がけしてみるのも方法のひとつだと思います。
一般社団法人を受託者とすることは?
家族信託では、一般社団法人を設立して、一般社団法人を受託者にする場合もあります。一般社団法人を受託者が死亡したりするリスクを回避でき、長期間の信託にも対応できるメリットがあります。
おひとり様、おふたり様の受託者問題も、一般社団法人を設立することで解決はできないでしょうか?
結論からいうと、実際には難しいと思われます。
なぜなら、一般社団法人を設立するには社員(株式会社の株主にあたる人)が必要ですが、社員になるような親族や知人がいなければ、結局、受託者のなり手がいないという問題と同じく、社員のなり手がいないという問題が発生してしまうからです。
おひとり様、おふたり様の場合、一般社団法人の設立は、受託者問題が社員問題に変わるだけで、問題解決にはならないと思うのです。
商事信託を利用する
受託者を誰にするかという問題は、民事信託(家族信託を含む)だからこそ起る問題と言えます。
商事信託であれば、信託銀行や銀行など、信託業の免許を持っている金融機関等が受託者となるので、受託者探しという問題はそもそも生じません。
いくつもの金融機関が、おひとり様向けの信託を用意しています。
費用面やサービス面を考えて、納得できるのであれば、商事信託を利用するのも方法の一つだと思います。
その他の方法を選択する
たとえば、任意後見であれば、司法書士や弁護士などが任意後見人となれるので、家族信託ではなく、任意後見を利用するというのも方法の一つです。
任意後見では、信託と違って、遺言の代用もしくは遺言類似の役割を果たすことはないので、任意後見を選択する場合、遺言を作成したり、死後事務委任契約も合わせて結ぶことも視野に入ってきます。
何も対策をしない
実は、何も対策をしないという方法もあります。特に、金銭的に余裕がないときは、何もしないという選択が有力です。
何もしないとどうなるのかというと、少なくとも現在の東京の状況を前提に言うと、何とかならないことはないと言っていいでしょう。私が知る限り、地域包括支援センターや市の担当部署は単身高齢者を熱心にサポートくれますし、社協の地域福祉権利擁護事業(いわゆる「地権」)を利用したり、法定後見制度を利用する方法があります。
認知症になってしまい不可解な行動をするようになったりすると、近所の人から市役所に連絡が行き、そこから、法定後見申立に繫がるなど、困っている人をほっておかない土壌が現在の日本にはあります。
家族信託、任意後見等は、自分自身の現在の意向・意思を反映した老後を過ごすための準備行為ですが、なるようになればそれでよいという割り切りをするのも一つの考え方で、そうした割り切りをして老後の準備を何もしなくても、現在の日本の福祉の状況では、生活していけるのは間違いないと思います。
まとめ(私見)
以下はあくまで私の私見であり、それ以上のものではないことをご承知おきください。
まず、自分がどのような老後を送りたいかを考えましょう。
その結果、割切や達観のもと、成り行きに任せるという結論に達した場合、現在何かを行なうという必要性は低くなります。困ったら、社協や包括、市区町村窓口に相談するとかを覚えておけばよいでしょう。自分が困ったときで、かつ、認知面で相談することが難しい状況になったときに備えて、近所づきあいをしておく等も、その必要性を感じれば、行なうとよいかもしれません。
ご自身の希望通りの老後を過ごしたいという場合、家族信託、商事信託、任意後見等の利用を検討することになります。
親族や知人友人に受託者にふさわしい人がいる場合には、家族信託も有力な選択肢になってくると思います。友人として信頼できることイコール財産を委ねるほど信頼できる、とは限らないかもしれませんが、たとえば、司法書士や弁護士を信託監督人として関与させることで、安心度を高めるなどの工夫も出来ます。
受託者にふさわしい人がいない場合には、家族信託は諦めた方がよいと思います。
一般的に、商事信託は費用が割高ですが、費用面とサービス面に納得が出来るのであれば、商事信託を利用することも有力な選択肢だと思います。
受託者にふさわしい人がおらず、商事信託に抵抗がある場合、任意後見を選択すべきだと思います。そもそも、家族信託は、あくまで財産管理面しかカバーできないので、施設入所とか入院時の手続まで期待する場合、任意後見も併用することもあります。そうしたこともあり、無理して受託者を探すよりも、任意後見を利用することを検討する方がよいと思います。
そして、任意後見を利用する場合、必要に応じて、遺言、死後事務委任契約、見守り契約、財産管理契約等を併用するのが一般的です。これらをセットにした任意後見+αの対策が私が考える、受託者候補者がいない場合の最有力な方法です。
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