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遺言作成講座② 遺言の種類

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遺言作成講座② 遺言の種類

遺言作成講座② 遺言の種類

2024/06/09

遺言には、いくつかの種類があります。遺言を作成するにあたっては、まず、どの形式の遺言を作成するかを検討することになります。遺言御形式にはどのようなものがあるかを知らないと、どの形式の遺言にするか判断しようがないので、今回は、遺言にはどのような形式のものがあるかを見ていきたいと思います。

<遺言の種類>​​​​​​

自筆証書遺言

公正証書遺言(遺言公正証書)

自筆証書遺言+自筆証書遺言書保管制度の利用

民事信託(家族信託):遺言代用信託

遺言の種類

遺言の種類としては、おおよそ、この四つが挙げられます。その他にも特別な形式の遺言はありますが、あまり利用されることはないので、説明は省略します。また、同じ自筆証書遺言でも、法務局の自筆証書遺言保管制度を利用するのとしないのでは、遺言の効力発生後の扱いがかなり異なるので、説明上、保管制度を利用する場合と利用しない場合については、別物として扱う事にします。また、契約の記載によっては、遺言と同様の役割を果たす、民事信託(家族信託)についても、ご説明いたします。

自筆証書遺言について

自筆証書遺言については、民法968条に要件が定められており、それを満たす必要があります。

(自筆証書遺言)

第968条

1 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。

2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第997条第1項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全文又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。

3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

自筆証書遺言は次の要件を充たさなくてはなりません。

遺言者が全文を自書すること

日付が書かれていること

氏名が書かれていること

印が押されていること

詳細については、次回以降でご説明しますが、基本的に、日付や氏名を含む全文を自分で書き、かつ、押印があるものが自筆証書遺言になります。

誤解されることが多いですが、封筒に入っている必要もありませんし、「遺言書」という表題がついていなくても構いません。民法上の要件さえ充たしていれば、日記やノートの一部でも遺言書になる可能性があります。簡易に書けるのでメリットとも言えますが、曖昧なものが残っていると、争いのもとになるので、日記や手帳に遺言(らしきもの)を書いておくのは控えたほうがよいと思います。

自筆証書遺言の長所・メリット

簡易に作成できる

費用が掛からない

自筆証書遺言のメリットは、簡単に安価に作成できることです。例えば、「全財産を妻Aに相続させる。令和6年1月1日 B ㊞」という数行のものでもよいわけです。自力で作れば、1分くらいの所要時間で、無料で作成できてしまいます。もっと詳しいものでも、本を一冊買ってきたり、ネットで調べれば作成できるでしょう。

例えば、末期がんになってしまい、余命1カ月と宣告されたような場合、公正証書遺言を作成するのでは間に合わない可能性があります。公正証書遺言の所で説明しますが、公正証書遺言は、公証人とのやり取りを経て、予約をしたうえで、公証役場に行って作成しなくてはならないからです。東京の場合、公証役場も混んでいるので、公正証書遺言作成には、最低でも2カ月くらいはかかると思っておいたほうがよいでしょう。

一方、自筆証書遺言ならば、簡単なものならば、今すぐにでも作れてしまいます。本を調べている時間はないかもしれませんが、専門家にアドバイスを聞き、すぐに作成すれば、公正証書遺言に比べてはるかに短い期間で作成が可能なはずです。

自筆証書遺言の短所・デメリット

紛失、滅失、破棄、改ざんのおそれがある

無効になる可能性がある(専門家に相談せずに作成した場合)

検認の必要がある

自筆証書遺言のデメリットとしては、紛失や改ざん、破棄のおそれがあることがあげられます。

例えば、だれにも相談せず、遺言を書き、机の引き出しにカギをかけてしまっておいたとします。誰もそこに遺言があるとは知りません。相続人は家を売ることにしましたが、引出しのカギが見つからなかったので、処理業者に頼み、机を処分してしまいました。このような場合、遺言が発見されない可能性があります。遺言が発見されなければ、せっかく書いた遺言の内容が実現することもありません。

あるいは、遺言を書き、机の引き出しにカギをかけてしまっておいた例では、次のような展開も考えられます。遺言の存在を知らない相続人は、遺産分割協議をし、不動産を売却して、売却代金を相続人で分けることにしました(換価分割)。被相続人名義では売れないので、遺産分割協議書に署名捺印をし、相続登記も済ませました。売却先も決まり、売却の前提として、家を空にして引き渡す必要があるので、家の残置物処理をすることにしました。その過程で、遺言書が発見されました。遺言書には長男Aに不動産を相続させると書いてありました...。

このように、相続手続きが途中まで進み、遺産分割協議もしてしまった後で、遺言が発見された場合、遺言の存在により損する人と得する人が出てしまい、もめる可能性が高まってしまいます。

自筆証書遺言を作成する場合、例えば、作成を依頼した専門職に遺言書を保管してもらうとか、相続人の誰かに遺言書を託しておくとか、遺言書が発見されやすくなるための手立てを講じておく必要があります。

自筆証書遺言には、破棄される恐れがあるという問題もあります。誰にも告げずに、自宅に遺言を保管していた場合で、遺言第一発見者が遺言によって不利になる人だったらば、どうでしょうか。遺言を捨てても誰にもわからないはずです。捨てられてしまう可能性はないでしょうか??

家庭裁判所の検認について

このように、自筆証書遺言には、廃棄、隠匿、改ざん等のおそれがあります。説明は省略しましたが、だれにも相談しないで作ると、無効な遺言となる可能性もあります。そうしたデメリットはもちろんですが、相続手続き上、自筆証書遺言の一番大きなデメリットは、家庭裁判所の検認手続きを経なくてはならない事だと思います。

検認とは、家庭裁判所の手続きで、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など、検認の日現在における遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造・変造を防止するための手続のことです。検認が済むと、家庭裁判所で検認済証明書を発行してもらうことが出来るようになります。

自筆証書遺言を用いての各種相続手続は、遺言書の提示だけでは足りず、この検認証明書も併せて提示する必要があります。検認の詳細については説明を省略しますが、自筆証書遺言の場合には、検認という手間がかかるというデメリットがあることを押さえておいてください。

公正証書遺言(遺言公正証書)について

公正証書遺言とは、公証役場の公証人に作成してもらう遺言のことです。公正証書遺言の作成者は遺言者ではなく、公証人になります。公正証書遺言は、公証人という公務員が作る公文書なのです。

(公正証書遺言)

第969条

公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。

① 証人2人以上の立会いがあること。

② 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。

③ 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。

④ 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。

⑤公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。

公正証書遺言は、建前では、遺言者が遺言御内容を口授(口で伝える事)し、公証人がそれを筆記し、読み聞かせる手順で作られることになっています。遺言者と証人が間違いないことを確認したうえで、署名捺印し、最後に、公証人が署名捺印して作成することになっています。

実際には、遺言者若しくは専門職が事前に公証人とやり取りをし、文案を固めたうえで、遺言者と証人が公証役場に出向き、公証人の読み聞かせに基づき、遺言者と証人、公証人が間違いないことを確認したうえで、署名捺印して作成していきます。

公正証書遺言の長所・メリット

紛失、改ざん、破棄、隠匿のおそれがない

(自筆証書遺言に比べ)はるかに無効になりづらい

検認が不要である

公正証書遺言は、公証役場の公証人が作成し、公証役場で保管されます。従って、紛失、改ざん、破棄、隠匿等のおそれがありません。

公正証書遺言は、公証人が本人確認をし、意思確認をし、内容についても確認し、必要があれば修正もするので、無効になりにくいという長所もあります。遺言作成講座の後の会でも触れようと思いますが、公正証書遺言だからといって絶対に無効にならないわけではないので、注意が必要です。実際に、公正証書遺言を無効とした裁判例はいくつかあります。

公正証書遺言の最大のメリットは、検認手続きを経なくてよいという事です。自筆証書遺言との最も大きな違いは、家庭裁判所での検認手続きの有無と言ってよいでしょう。

公正証書遺言の短所・デメリット

(自筆証書遺言に比べ)費用と手間がかかる

公証人とのやり取り(交渉)が必要になる

遺言者が死亡しても通知制度はない

繰り返しになりますが、公正証書遺言は、公証人が作る公文書です。作成者はあくまで公証人なので、公証人とやり取りをしながら文案を作っていきます。公証人によって、対応・スタンスが違うのにも注意が必要です。公証人は、法的に効力がないことや遺言では定められないような事柄を遺言に入れることはしないので、公証人とやり取りをしながら修正していくこともあり得ます。このようなやり取りには、手間と時間がかかります。文案が決まった後は、公証役場に予約を入れるのですが、一ヶ月くらい待つことは珍しくありません。

公正証書遺言の場合、公証人の手数料も発生します。

手間(時間)と費用が掛かるのが公正証書遺言御デメリットと言えるでしょう。

公正証書遺言は、公証役場に保管されているので、遺言検索により、遺言の存在を知ることが出来ます。しかし、逆に言うと、検索という主体的な行動がないと、遺言の存在を知ることが出来ないことを意味します。この後ご説明する、自筆証書遺言の遺言書保管制度では、通知制度がありますが、通知制度では、相続人が何もしなくても遺言の存在が通知されます。相続人が遺言検索の制度を使い、積極的に探さないと遺言の存在が分からないということは、公正証書遺言のデメリットと言えるでしょう。

公正証書遺言が無効になる可能性があるケース

公正証書遺言は、自筆証書遺言よりもはるかに無効になりづらいですが、絶対に有効で、向こうにならないというわけではないので、注意が必要です。

自筆証書遺言+自筆証書遺言書保管制度について

法務局(遺言保管所)にて、自筆証書遺言を保管する制度が始まりました。この制度は、おすすめの制度なので、後日詳しく説明しますが、ここでは他の制度との比較を中心に、簡単にご説明したいと思います。

自筆証書遺言保管制度とは、法務局で遺言を預かってもらう制度のことです。自筆証書遺言のデメリットについてはご説明済みですが、自筆証書遺言保管制度では、自筆証書遺言の欠点の多くが解消されています。公正証書遺言に比べて安価で出来ますし、遺言者の死亡時に通知が届く制度もあります。

まだまだ始まったばかりの制度ですが、これから多くの方が利用するであろう制度だと思います。

自筆証書遺言+自筆証書遺言書保管制度の長所・メリット

紛失、改ざん、破棄、隠匿のおそれがない

(公正証書遺言に比べ)費用が廉価である

通知の制度がある

検認が不要である

自筆証書遺言書保管制度を利用した場合、制度を利用しない自筆証書遺言や公正証書遺言に比べて、いくつかのメリットがあります。

自筆証書遺言と比べた場合、紛失、改ざん、破棄、隠匿のおそれがないであるとか、検認が不要であるといったメリットがあります。このことを言い換えると、自筆証書遺言であるにもかかわらず、公正証書遺言と同様のメリットがあることになります。

そのうえ、公正証書遺言と比べて、安価で利用できるというメリットもあります。公正証書遺言の手数料が数万円かかるのに対し、自筆証書遺言書保管制度は一件3,900円で利用できます。

自筆証書遺言保管制度には、通知の制度もあります。その詳細は保管制度について詳しくご説明する回に譲りますが、保管制度を利用すると、通知を受けることが出来ます。遺言者の死亡を法務局が把握すると、遺言者が希望した人に通知がなされる制度です。このような制度は、公正証書遺言にはありません。

自筆証書遺言+自筆証書遺言書保管制度の短所・デメリット

(自筆証書遺言に比べ)費用と手間がかかる

遺言者本人が管轄法務局に出向く必要がある

遺言書保管官は、遺言の中身のチェックをしないので無効になるおそれがある

自筆証書遺言のデメリットとしては、通常の自筆証書遺言に比べ、費用と手間がかかるということがあります。もっとも、公正証書遺言よりは安価です。

もう一つのデメリットとしては、遺言者本人が遺言書保管所である法務局に出向く必要があるということです。この点、公正証書遺言には公証人が出張するという制度があるのと対照的です。

遺言書保管官は遺言書の形式的部分についてはチェックしますが、内容についてはチェックしません。その結果、内容に問題のある遺言が放置されてしまう可能性が生じます。もっとも、遺言書作成について専門家の相談を受ければ、そうした可能性は排除できるはずです。

家族信託(民事信託)について

家族信託の仕組みを使って、遺言と同様の効果をもたらすこともできます。家族信託を利用する方法については、別に独立した項目を設けて詳しくご説明いたします。今回は簡単な説明にとどめます。

信託とは、委託者が受託者に財産を託し、その財産を受益者のために使う仕組みです。遺言が単独行為であるのに対し、信託は、委託者と受託者の間の契約になります。信託のうち、商事信託以外のものを民事信託と呼び、民事信託の中でも委託者、受託者、受益者がいずれも家族であるものを家族信託と呼ぶことがあります。

家族信託においては、受益者を連続させることが出来ます。例えば、一次受益者を委託者自信、一次受益者が死亡した後の二次受益者を配偶者、二次受益者が死亡した後の三次受益者を子とすれば、受益権が、自分→配偶者→子と移り、結果として、遺言を遺したのと同様に、自分の死後の財産の帰属を定めることが出来ます。あるいは、受益者の死亡により信託が終了し、信託終了後の財産帰属者を子と定めておくと、受益者の死亡により財産が子に移転することになり、これもまた、遺言と同様の効果をもたらします。

信託は、遺言よりもはるかに弾力的で融通が利くので、遺言ではできないことを定めることも可能となるので、今後ますます注目されていくと思います。


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