株式投資信託の換価分割と遺産整理業務
2024/12/08
特定口座とは?(前提知識)
今回のお話は、遺産に上場株式や投資信託がある場合のお話です。
今回のお話をする際には、その前提として、特定口座という言葉と換価分割という言葉の意味を知っておく必要があります。
まずは、特定口座についてご説明します。
特定口座とは、証券会社が税金の計算をしたり、売買益や配当金が生じたときに源泉徴収してくれる口座のことです。
特定口座には、
特定口座源泉徴収あり
特定口座源泉徴収なし
の二種類の口座があります。
特定口座源泉徴収ありの口座の場合、口座内の全ての有価証券について、取得価格を証券会社が把握しており、有価証券の譲渡所得の計算をする必要がありません。それに加えて、利益が出た時には税金が源泉徴収されたり、損失が出た場合には、すでに源泉徴収された金額の一部または全部が返還されたりします。そして、確定申告は不要になります。
特定口座源泉徴収なしの口座では、有価証券の譲渡所得の計算までは証券会社がしてくれますが、源泉徴収等はなく、その計算をもとに、自分自身で確定申告をすることになります。
今回のお話は、被相続人が特定口座に株式や投資信託を保有していた場合のお話です。なお、今回のお話では、源泉徴収ありか源泉徴収なしかは重要ではなく、特定口座内の有価証券であることがポイントです。
換価分割とは?(前提知識その2)
換価分割とは、遺産分割の方法の一つで、文字通り、換価して分割することをいいます。換価とは売却のことです。株式についていえば、株式を売却して、その売却代金を、相続人間で、一定の割合で分ける(分割する)ことをいいます。
つまり、今回は、特定口座内の株式や投資信託を売却して、相続人間で分ける場合のお話になるのです。
遺産整理業務と証券会社の手続き
株式や投資信託などの有価証券が遺産にあり、遺産整理業務の対象になっている場合、おおよそ、二つの方法が考えられます。
A株は相続人甲が取得し、B投資信託は相続人乙が取得するというような場合です。このような場合、遺産整理業務の受任者は、甲と乙の合意内容に従い、直接、甲や乙の口座に株式等を移管します。
A株とB投資信託を売却して、その売価却代金を、相続人甲乙が各2分の1ずつ分割するような場合、遺産整理業務受任者が亡誰々遺産整理業務受任者司法書士向後弘之というような口座を作り、その口座に有価証券を移したうえで売却し、その口座に入ってきた売却代金を2分の1ずつ分配するというような方法を取ることも考えられます。
今回のお話は、後者のケースでは注意点があるというお話になります。
遺産整理業務受任者の証券口座
被相続人の銀行口座を解約し、各相続人に分配する場合、いったん、遺産整理業務受任者の口座(預り金口や遺産整理用の口座)で受け取ったうえで分配することがあります。たとえば、「下記の銀行預金については、甲に2分の1、乙に4分の1、丙に4分の1の割合で分割する。」というような遺産分割協議が成立している場合、いくつかの銀行から、そうした割合で各相続人に直接振り込むよりも、いったんすべてを遺産整理業務受任者が受け取り、全額につき、その割合で振り込む方が簡便だと思われるからです。
上場株式や投資信託についても、「下記の株式及び投資信託については、換価の上、、甲に2分の1、乙に4分の1、丙に4分の1の割合で分割する。」というような遺産分割協議が成立している場合、遺産整理業務受任者の口座を作り、その口座内で売却し、売却代金を分配するという事が出来ます。証券会社には、遺産整理業務受任者の口座を作れるからです。
しかし、この方法には一つ、大きな問題があります。遺産整理業務受任者名義の口座(遺産整理用の証券口座)には、特定口座が作れないのです。遺産整理業務受任者名義の口座は、一般口座になるのです。
従って、株式や投資信託は、被相続人の特定口座から遺産整理業務受任者の一般口座に移され、一般口座で売却されることになります。その結果、確定申告が必要になる可能性が出てきてしまいます。
なお、遺言執行でも同じような問題が生じます。遺言執行者名義の証券口座を作ることもできますが、やはり、遺言執行者名義の特定口座を作ることは出来ないので、遺言で、有価証券を換価して分けるよう定める場合には、その点に留意する必要が出てきます。
一般口座で株式を売却し、利益が出た場合の注意点(特定口座との違い)
一般口座で株式や投資信託を売却し、利益が出ると(譲渡所得が生じると)、確定申告が必要なだけではありません。特にお年寄り等の場合注意が必要になります。
譲渡所得が生じたことにより、1年間だけではありますが、介護保険料や健康保険料に影響が出たり、介護サービスや医療費の負担割合が変わったり、限度額認定が受けられなくなる可能性が生じ得るのです。
ちなみに、特定口座源泉徴収ありの口座であれば、利益が出ても確定申告は不要であり、社会保険関係に影響が出る事はありません(令和6年現在)。
※特定口座源泉徴収ありの口座でも、他社の損失との損益通算をする等の理由で確定申告をする場合がありますが、申告の結果、社会保険への影響が出てしまう可能性が生じる場合があります。
なお、以前は、居住していた市町村へ「市民税・都民税申告書」を提出することで、住民税の課税方法について、所得税で選択した方法とは異なる課税方法を選択できましたが、令和6年度(令和5年中の所得)の申告からは、所得税と住民税で異なる課税方法は選択できなくなりましたので、この点にも注意が必要です。
まとめ
今回のお話のように、遺産整理業務には盲点があります。
大切な遺産の手続きは、様々な経験をした専門家で、かつ、税理士と連携の取れている人に依頼することが大切なのではないでしょうか。
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