父と母が相次いで亡くなった場合(夫婦の数次相続・一人っ子の場合)
2025/01/06
今回の事例(父と母が相次いで死亡し、相続人が子一人となった場合)
お父さんが自宅不動産を所有していました。
まず、令和5年1月10日にお父様が亡くなりました。お父様の相続登記をしないうちに、令和6年3月1日にお母様も亡くなってしまいました。相続人は子1名です。
このような場合、どのような手続きや登記をしたらよいでしょうか?
直に父から子に所有権が移せるか?
基本的に、所有権移転登記は、現在の所有権登記人を示すだけでなく、所有権の移り変わりも正確に示す必要があります。相続に限らず、例えば、所有権がA→B→Cと移った場合には、原則として、直接A→Cに登記を移すことはできず、まずA→Bに所有権を移す登記を行い、次にB→Cに所有権を移転する登記を行う必要があるのです。
今回の事例でも、原則通り、父から子に直接登記を移すことはできないのでしょうか?
なお、今回の事例を父母の数次相続と呼び、亡父の相続を一次相続、亡母の相続を二次相続と呼ぶことにします。
従来の扱い
従来(それもかなり長い間)、父母の数次相続の場合、父から子に直接所有権を移転できるとされてきました。亡父の相続につき、子が、自分自身の立場と亡父の相続人である亡母の相続人の立場を兼ねて遺産分割協議をするという形をとり、そうした内容が記された遺産分割協議書を添付すれば、登記が受理される扱いになっていたのです(少なくとも東京の場合にはそのような扱いがなされていました)。
しかし、現在では、その扱いは、一人っ子の場合、否定されています。
その扱いを否定する明確な裁判例 ( 東京高裁平成26年9月30日判決 ) があります。もっとも、この裁判は、東京法務局田無出張所に登記申請をし、その登記申請が却下された処分を不服として争われたものであり、裁判がきっかけになったというよりは、法務局(法務省)側が従来の扱いはおかしいと考えており、その考えに基づき登記申請を却下し、裁判所が、その考えは正しいとのお墨付きを与えたということかと思います。原審の判決文にも、「平成23年8月頃,本件と同様の事案(甲が死亡して 甲の配偶者乙と甲乙の子丙が共同相続人となったが,遺産分割未了のまま 乙が死亡した場合において,遺産処分決定書と題する書面を添付して,甲 から直接丙へ,相続を原因として所有権移転登記を申請した事案)につい て,東京法務局民事行政部不動産登記部門に照会し,甲から直接丙に対して移転登記をすることはできない旨の回答を受けていた」、「登記研究758号及び同759号(平成23年4月号及び同年5月号)には,上記事案について,丙を相続人とする遺産分割協議 書又は乙の特別受益証明書等の提供がない限り,直接甲から丙への相続を 登記原因とする所有権の移転登記を申請することはできないとの見解が記載されている」等、少なくとも東京法務局は、この登記申請の時点では、直接登記できるという扱いを否定していたと思われることが書かれています。
※裁判になった事例では、平成24年10月4日に登記申請がなされています。
この裁判例は、裁判所の判例検索でも、その全文を確認することができます。以下に、リンクを示しておきます。また、原審についても全文を閲覧できるので、原審である東京地裁平成26年3月13日判決についても、リンクを示しておきます。
東京高裁平成26年9月30日判決の要旨
Xは亡Aと亡Bの唯一の子である。被相続人Aの相続人がB及びXの2人であるが、被相続人Aの死亡に伴う一次相続についての遺産分割が未了のうちに、Bも死亡した。Xは、被相続人Aの遺産全部を直接相続した旨を記載した遺産処分決定書と題する書面を添付して、一次相続を原因とする所有権移転登記申請を行った。
この登記申請を東京法務局田無出張所が却下した決定は適法である。
被相続人Aの遺産は、一次相続の開始時において、B及びXに遺産共有の状態で帰属しており、その後、二次相続の開始時において、その全てがXに帰属したというべきであるが、添付された「遺産処分決定書」によってXが被相続人Aの遺産全部を直接相続したことを形式的に審査し得るものではないから、登記官が登記原因証明情報の提供がない(Xが被相続人Aの遺産全部を直接相続したこと=登記原因を示す資料の添付がない)として不動産登記法25条9号に基づき上記申請を却下した決定は適法である。
子が複数の場合との比較
今回の事例のポイントは、子が一人であるということです。最終的に残った相続人が一人しかいないということは、遺産分割協議ができないことを意味します(協議とは話し合いのことですが一人では話し合いはできません)。裁判になった事例でも、協議ができないことを前提に、遺産処分決定書を提出して、登記申請が行われています。原審の判決文によると、遺産処分決定書には、次のように書かれています。
「被相続人Aの相続登記につき,共同相続人の1人で,被相続人の妻 Bは遺産分割未了のまま平成24年 ▲ 月 ▲ 日死亡致しました。つきましては,被相続人Aの遺産である別紙物件の共有持分は,相続人Dが直接全部を相続し,取得したことを上申いたします。」
子が複数の場合はどうでしょか?
子が複数の場合、例えば二人の場合、その二人で遺産分割協議ができるという違いがあります。子が二人の場合、子二人が遺産分割協議をし、その結果を文書にした遺産分割協議書を添付して、父から子に直接登記申請をすることができます。つまり、子が一人の場合と複数の場合で、結論が違うことになります。
この是非はともかく、子が複数の場合と違い、子が一人の場合、直接父から子に所有権を移すことはできないというのが結論になります。
なすべき登記
今回の事例でなすべき登記は以下の通りとなります。
一件目:令和5年1月10日相続を原因とする所有権移転登記
二件目:令和6年3月1日相続を原因とする母持分全部移転登記
まず、一件目で父の相続登記をします。法定相続分での登記となるので、登記の結果、亡母2分の1、子2分の1の共有となります。
次に二件目で、母の相続登記をします。法定相続分での登記(母持分全部移転登記)を行い、母の持分の全てが子に移ります。
この二件の登記を経て、子が単独所有者となります。この二つの登記は同時申請(連件)でできます。
相続登記の登録免許税の免税措置について
実は、今回のケースで父から子に直接所有権を移せるかどうかについては、以前よりも論じる実益が減った面があります。どうしてかと言うと、相続登記の登録免許税の免税措置があるからです。
個人が相続により土地の所有権を取得した場合において、当該個人が当該相続による当該土地の所有権の移転の登記を受ける前に死亡したときは、令和7年(2025年)3月31日までの間に当該個人を当該土地の所有権の登記名義人とするために受ける登記については、登録免許税を課さないこととされているからです。
つまり、土地については、登録免許税は、直接移せても移せなくても変わらないことになります。建物は登録免許税が課されるので、注意が必要です。
司法書士報酬について
現在司法書士報酬は自由化されています。一件の登記で済むか二件必要かで報酬が変わる場合があります。
こうご司法書士事務所では、二件分の登記報酬をいただきますが、二件で行う場合、遺産分割協議書(それと同種のもの)が必要なく、遺産分割協議書作成報酬の分が減るので、数万円高くなります。詳細は、当事務所に直接お尋ねください。
遺産分割協議成立後登記前に二次相続が発生した場合
今回のケースは、不動産の登記名義人である父が死亡後、遺産分割協議未了のうちに母も死亡したというものです。これと似た事例で、子がすべてを取得する内容の遺産分割協議成立後に、母が死亡した場合はどうでしょうか?
この場合、実は、遺産分割協議証明書を添付のうえ、父から直接父に、所有権移転登記ができるとされています。
登記の難しいところは、少し事情が違うだけで扱いが変わることです。相続登記が義務化されたわけですし、一般の方にとって、もう少しわかりやすく簡便な制度運用が求められるのではないでしょうか。
相続登記手続報酬表(税別)
基本料金(課税価格2,000万円、不動産2筆、相続人3人までの法定相続分による相続の場合) | 60,000円 |
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下記のときは、上記基本料金に加えて、追加料金をいただきます。
遺産分割協議書等の書類作成 | 1つにつき20,000円 ただし、遺産分割協議書作成については、「遺産分割協議の報酬」を参照 |
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課税価格2000万円超のとき | 1,000万円増えるごとに2,500円加算 |
3筆以上のとき ※注1 | 1筆増えるごとに2,500円加算 |
相続人が4人以上のとき | 1人増えるごとに5,000円加算 |
戸籍・改製原戸籍・住民票・附票等取得費 | 1通2,000円 |
評価証明書取得 | 請求先一つにつき2,000円 |
複数の法務局に登記申請する場合 | 法務局ごとに報酬を計算 |
所有権移転と持分移転の双方の登記が必要なとき 所有権移転登記と保存登記の両方が必要なとき | 一つの登記でできないときは20,000円加算 |
※注 この他、登録免許税、謄本、戸籍等取得費、郵送代等の実費がかかります。
※注 特殊な相続等、上記料金のほかに別途報酬をいただく登記もございます。
※注1 付属建物・敷地権も1筆と数えます。
遺産分割協議書作成報酬(税別)
不動産のみの遺産分割協議書
20,000円
ただし、不動産の個数が4つ以上の時は、不動産の個数一個につき、1,000円加算。
不動産以外も含まれる場合
不動産以外の評価額3000万円までは20,000円加算。以降、1,000万円ごとに5,000円ずつ加算。
代襲相続・数次相続の場合
10,000円~40,000円加算
相続人が海外在住邦人の場合
1人につき10,000円加算
代償分割・換価分割など
事案により、20,000~40,000円加算
その他、事情により加算される場合があります。ただし、特殊な場合や財産が多岐に及ぶ場合或いは多額に及ぶ場合等を除き、遺産分割協議作成についての報酬が最高でも60,000円(税別)を超えることのないように配慮いたします。
なお、原則として、遺産分割協議書作成のみご依頼はお受けせず、行政書士を紹介します。司法書士が行う遺産分割協議書の作成は、相続登記、遺産承継業務、預金等の名義書き換え業務とセットでの受任となります。
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こうご司法書士事務所
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