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相続放棄後の空家の管理責任

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相続放棄後の空家の管理責任

相続放棄後の空家の管理責任

2024/09/13

相続放棄後の管理責任(保存責任)について

従来、「相続放棄をしても、管理責任が残る」ということが問題になっていました。

現実に、どの程度問題になるのかはともかく、法文上は、次順位の相続人が管理をはじめることができるようになるまでは、管理を継続する(管理責任が残り続ける)ことになっていました。

たとえば、相続放棄後の空家が倒壊して人が下敷きになってケガをした場合や、管理せずに放置したことにより山林が崩れ、その土砂が同道路を塞いでしまった場合などに、責任を問われる可能性があることになります(学説上は争いがあり、判例もないので、責任を問われると断言できるわけではありませんが、可能性があることは否定できないと思われます)。

現実に、そうした可能性がどれくらいあるかはともかく、この管理責任の問題が、相続放棄を考えるさいの一つのネックになっていたことは否定できないでしょう。

しかし、現在では(2023年4月施行の民法改正以降)、相続放棄後の管理責任の規定は、変わっています。その変化は、一見すると分かりづらいのですが、新旧の940条を比較すると、どのように変わったのかが見えてきます。

(相続の放棄をした者による管理)
第940条 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第952条第1項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
2 第645条、第646条並びに第650条第1項及び第2項の規定は、前項の場合について準用する。

(参考・旧940条)
第940条  相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。

新旧940条の比較

現行940条と旧940条を見比べてください。どこが違っているでしょうか?

まず、現行940条には、旧法から加えられた部分があります。わかりやすいように、新法によって加えられた部分を太字にしておきました。「その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは」という言葉が加わっているのが分かると思います。ここが非常に重要です。

また、現行法では、旧法で「管理を継続」とされていた表現が、「保存」という言葉に変わっています。この点に着目するなら、管理責任ではなく、保存責任と呼ぶべきものなのかもしれません。

管理責任は「現に占有しているとき」に限定される

繰り返しになりますが、現行940条には、旧法にはなかった「その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは」という言葉が加えられました。すなわち、新法の下では、管理(保存)責任を負うのは、現に占有しているときに限定されたのです。どこにあるかもわからない不動産(当然占有していない)を相続放棄しても、管理(保存)責任を負うことはないのです。

以下、いくつかの例に沿って、見ていきたいと思います。

例① 放棄者が一度も訪れたことのない放置された別荘

1回も訪れたことのないような放置された別荘は、「その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有している」とは言えないので、相続放棄後に、このような不動産についての管理(保存)責任を負うことはないと思われます。

ただし、被相続人死亡後に、草刈りをしたり、家屋内の片付けをしたりすると、「現に占有している」とみなされる可能性が出てくるかもしれないので、注意が必要です。

なお、不動産にどの程度関与してしまうと「現に占有している」とみなされるのかは、裁判例があるわけでもなく、はっきりしたことは言えないと思います。

例② 放棄者が住んでいた土地建物

被相続人が死亡した時点で、放棄者がその建物に住んでいた場合、「現に占有している」とみなされる可能性が非常に高いと思われます。

このような場合でも、単純承認にあたるような行為をしなければ相続放棄できるわけですが、管理(保存)責任を負う可能性は高いと思われます。

例③ 放棄者が過去に住んだことのある土地建物

「その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有している」とされているので、過去に住んでいたかどうかは決定的な要素ではないと思われます。

<どのような場合に管理(保存)責任を負うかははっきりしない面がある> 

法改正がなされて間もないですし、どのような場合に管理(保存)責任を負うかは、はっきりしない面がある党のが正直なところです。

今後の裁判例をみていく必要があるでしょうし、そもそも、今後どれくらいの裁判例が蓄積されていくのか微妙です。というのも、現実に、放棄後の相続財産の管理(保存)責任が問われるような場面がどれくらいあるか疑問だからです。

旧法時代にも、判例は勿論、下級審の裁判例でも、管理責任の内容について判示されたものは見当たらず、たとえば、相続財産である建物が倒壊し、第三者に被害を与えたような場合にも940条の管理責任が及ぶのかは判然としていませんでした。

新法下でも、果たして、第三者が放棄者に対して、管理(保存)責任と問うような裁判例が出てくるのか、そのような裁判があったとして、「現に占有しているか」という部分にまで判旨する結果となるのか(その前段階として、管理(保存)責任の内容として、「第三者との関係では、相続放棄者が管理義務を負うことはないとして、「現に占有しているか」の判断まで踏み込まないのではないか)は、分からないというのが正直なところです。

<結語> 

民法940条については、改正前から、第三者に対しても管理責任を負うのかは明確ではありませんでした。下級審も含め、判例集に載っているような裁判例もないように思います。

だからと言って、安心なのではなく、一般に「リスク」とは、結論がはっきりしない事を指すはずで、そうだとするなら、相続放棄をしても、940条の管理責任のリスクはあると言わざるを得ないわけです。

勿論、実際に裁判例もない(と思われる)ようなリスクについて、心配しすぎて、放棄を諦めるということがあれば、結論を見誤る可能性がありますが、リスクを無視して、大丈夫だと言い切ることもまた危険だと思います。

その意味で、法改正によって、「その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有している」という部分が加わったことは無視できないことだと思います。少なくとも、存在すら知らなかったような空家については、「現に占有している」とは言えないことは明らかで、そのような場合に、管理(保存)責任を負うことはなくなったということは、認識しておくべき事柄だと思います。

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