「〇〇の場合、相続放棄は認められるか?」という質問は愚問である??
2024/10/12
相続放棄についてのご相談を受けていると、「〇〇の場合、相続放棄は認められるか?」という質問がよく聞かれます。この質問は、相続放棄を理解したうえで、質問し、回答しなければ、「愚問」になりかねません。
今回は、その意味を解説していきたいと思います。今回お話しすることは、相続放棄を考える上での基礎であり、非常に重要な事柄となります。
目次
「相続放棄が認められる」とは何を指しているのか
そもそも、「相続放棄が認められる」とは、何を意味しているのでしょうか?相続放棄手続では、添付資料を集め、相続放棄申述書を家庭裁判所に提出することからスタートします。手続は、照会書の返送を経て、相続放棄申述受理通知書を受け取り、「終了」します。
「相続放棄が認められる」ということは、相続放棄の申述が家庭裁判所から受理されることを指すのでしょうか?
相続放棄手続と被相続人の債権者
被相続人の債権者は、相続人が相続放棄をすると、債権の回収ができないので、相続放棄に利害関係を持っています。だからと言って、債権者は、相続放棄申述手続に何の関与もすることはできません。債権者は、相続放棄の申述が受理されるまでの裁判所の手続において、異議を述べる機会は全くないのです。
言い換えると、手続上、債権者の異議等により、受理されるはずだった申述が受理されないというように、結論が覆ることはないのです。
ほとんどの場合、相続放棄の申述は受理される
実は、相続放棄の申述はほとんどの場合受理されます。司法統計によれば、却下される率は、0.2%にも満たないのです。勿論、明らかに要件を欠く場合には、そもそも申述書を出すことなく放棄をあきらめるでしょうから、その点は割り引いて考えるべきでしょう。しかし、受理されるか微妙なケースでも、出された受理されることが多いと言えるのではないでしょうか?
相続放棄に異議のある債権者はどうするのか?
仮に、受理されるのか微妙なケースでも相続放棄が受理されるとすると、納得できない債権者はどうしたらよいのでしょうか?
前述の通り、債権者は、相続放棄の申述が受理されるまでの裁判所の手続において、異議を述べる機会は全くありません。にもかかわらず、かなりの確率で相続放棄が受理され、相続人(だった人)に支払いの請求ができないとしたら、債権者としては困ってしまいます。
債権者はどうしたらよいのでしょうか?実は、債権者には対抗手段があります。相続人に対して、債権回収のための訴訟を提起し、その中で、相続人が相続放棄を主張してきたら、相続放棄の無効を主張すればよいのです。
相続放棄の申述手続きにおいては、なされた申述が、形式的に要件を欠くかどうかの判断しかなされません。
例えば、債権者からの通知で相続人の債務を知った場合、そこを熟慮期間(3か月)の起算点として、相続放棄の申述をすることになります。ここで、相続人が債権者からの通知を受けとったのが7月1日だったが、申述書上、7月1日の通知に触れずに、2回目に通知が来た9月1日を起算点として、11月20日に申述書を出したとします。この申述には、通常、債権者からの通知書(督促状)を添付することになりますが、9月1日の通知書から、7月1日の通知の存在がうかがい知れないときには、熟慮期間内の申述として、相続放棄の申述は受理される可能性が高いと思われます。
このような場合、債権者は、7月1日に通知を出しており、相続人がそれを受け取っているから、11月20に出された申述は、熟慮期間外のものであり、相続放棄は無効だから、相続人には債権を返済すべき義務があるというように争えるわけです(その主張が認められるかは別問題ですが)。
相続放棄手続の仕組み
ここまでをまとめると、相続放棄の申述手続では、形式的に明らかに要件を欠く場合以外は、相続放棄の申述を受理し、その結論に納得できない債権者は、債権回収手続きにおいて、相続放棄の無効を主張するべきである、というのが裁判実務上の扱いということになります。
そして、「相続放棄が認められる」ということが、相続放棄の申述が受理されることを意味するのであれば、明らかに認められない場合を除き、多くの場合で相続放棄は認められるということになります。
ただし、仮に認められたとしても、後日、債権者からの裁判手続きで、相続放棄が覆されてしまう可能性もあります。微妙なケースでは、ここまで考えて、手続きをする必要があるのではないでしょうか。
その意味で、相続放棄の申述手続を、相続放棄を認めてもらう手続と考えるのには、危険な面があるのです。それが、今回のお話の題名に、『「〇〇の場合、相続放棄は認められるか?」という質問は愚問である??』とつけた趣旨です。
異議を述べる債権者がいないような場合
さて、相続放棄に異議を述べたり、債権を回収したい債権者がいないような場合、いったん受理された相続放棄の申述が、後日覆される可能性は低いということになります。少なくとも、後日覆されるという要素を、申述段階で気にする必要性は少なそうです。
その意味で債務超過型の相続放棄と疎遠であるとかプラスの財産しかないが面倒だとかいう場合の相続放棄では、慎重さの度合いが違うのかもしれません。
もう一つの要素
「相続放棄が認められるか」を考える場合、もう一つの要素があります。受理されたという裁判例があるからといって、確実に受理されるとは限らないということです。
別の機会に詳述しますが、論点のひとつとして、「葬儀費用を相続財産から支出した場合に、相続放棄が認められるのか」というものがあります。
この点については、高裁の裁判例しかなく、最高裁判例がないという問題があります。高裁の裁判例には、判例のような先例拘束性はないですが、他の裁判所は高裁の裁判例を参考もしくは尊重はするはずです。そのうえで、今回お話ししてきたように、裁判所は相続放棄の申述を基本的には受理するので、このようなケースも受理するのではないかとは思います。
しかし、確実に受理される、とまでは言えないのです。
もう一つの問題として、判例(裁判例)の射程の問題があります。例えば、「葬儀費用を相続財産から支出した場合に、相続放棄が認められるのか」の答えとしてよくあげられる裁判例に、大阪高裁平成14年7月3日決定というものがあります。この事例は、債務が判明する前に葬儀費用を支出した事例です。債務判明後に葬儀費用を支出した場合もこの裁判例に当てはめることができるかは不明です。
このように、その判断を下したのが最高裁なのか下級審なのか、事案の当てはめとして適切なのかは、非常に重要な要素なのです。
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